C R I M S O N
〜 Episode 6 〜 奈落 に 落ちた 土地
the one earth in the bottom
知っているだろうか。
諸君は。
世界は、――イヤ、我々人類と自称する生き物は皆、常に世界に対する強い恐怖におびえながら生活しているという事について、はたして自覚がおありだろうか。――人間の心理、その深きにいたっては長い間解明がなされていなかった。―――いや、解明は出来てはいたのだ。ただ、それを信じようとする人間があまりにも少なく、またそうした行動は神の力の前ではあまりにも無力だったのだ…そして世界は、混乱を恐れていたのである。
――――人間の深層心理、その中のある階層については、偉大なる創造主によって巧妙な細工が施してあることが判明した。ここにその詳細を記したい。だが、それには著書を受け取った諸君の真の意味での理解が必要だ。以下はその序章である。
魔法。幽霊。怪物。異世界の住民。―――こういったものの存在はみな、我々人類にとっては架空のものとして認識される。――なぜなら、これらは科学的思考を持つものが嫌う典型的なイレギュラーそのものだからである。説明できない物に対して最初に為される極簡単な心理的プログラム――しかし、この現象こそが、この既存するシステムこそが、太古の記憶から私たちの脳に刻み込まれたあるデータを記憶させ遺伝化したものが、科学的根拠にもとづく説明では不可侵な領域に達する奇現象における精神からのストッパーなのである。
存在し得ないものはあってはならない。科学とは常にそういった狭い領域の中で物事を測りとっているものだ。だから、そうして世界を形式化して見る以上はどうしても我々人類は盲目にならざるを得ない―――――これは非常に誤った考え方である――――本書を学ぶ上で最も捨て去らなくてはならない忌むべき思考である―――まずそれを理解してもらいたい――しかし、世界は不変ではない。絶えず変動する。特に、それ自体を目的とする生命の進化においては必ず言えることだ――平凡で盲目な人間たちの脳内の一部が、ある一定の領域に達した時、それこそ世界は変貌を迎える。その時に見える世界の有様、その変容振りに適応できる人間が果たして現世に存在しえるのだろうか?答えはノーである。しかし、限りなくゼロに近い値、とだけ言っておくことは出来る。なぜなら、あって存在しえぬもの――それこそが我々一生命としての人類の目指す進化そのものだからである――。
もはや…化学は、未知を知る手がかりではなくなってしまったようだ。
ここからが本当の意味での進化である。
神の庭である世界は開拓され、切り開かれる。
ああ、その先にどんな道が待っていようとも、道は開かれるだろう。
今こそ、我々が立ち上がるべき時なのである。
我々、wizardである人間として
――――ある囚人研究者による、『謎に満ちた研究』、序章
ペラ…
ペラ…
「何だコレ」
時は変わって、現代。
秋の夜道を、風がそよいでいた。
――と、言うにしては、えらく寒い土地でもある。辺りは霜で覆われ、静寂に包まれた夜空からは、小さな雪が降り注いでいる。
黒いマフラー一筋に茶褐色のコートを羽織い、少年は一人、繁華街の方へと向かう。
帰宅途中のバスに乗り遅れぬように、今日はいつもより少し、慌てている――はずだったのだが。
「いっけね、もうこんな時間っ」
少年が持っているものは、偶然見つけた、一冊の本。それを握り締め、少年はバス停へ走る。――いけねー、つい見入ってしまった。あの不可解な文章の中には、自分を特別魅了する何かがある。まてまて、間違いない。これが俺の捜し求めていたものだったのだ――
少年は心の中でつぶやき、右手拳を強く握り締めた。興奮を抑えきれないまま、あれやこれやと頭の中で想像を膨らましていくうちに次第にはバスに遅れる事などはほとんど忘れ、気にも留めなくなるほど夢心になって走っていた。
そこへ降りこめる雪が行く手を阻み、少年を現実に引き戻す――うおっ、後一分で乗り遅れそうだ!――
しかし
「うぉー・・・今日は実に良い満月だな・・」
少年は、今日もこうして暢気に月を見上げてみては感嘆するのであった。
こうして見上げていると、月には、何か特別な力がはたらいているように思えてくる。とても、とても神秘的な力が――
―――霧がかった街路地を、夜の光が照らしていた。辺りには街灯も立ち並んではいるが、とは言えどれもろくについてもくれないのだった。モダンな風景とはかけはなれ――、しかし歴史というか、人の営みを感じさせるへんぴな土地――人間の文明支配が遅れた町、とでも呼べるのだろうか――建物の多い繁華街は別として、此処のへんぴっぷりには常軌を逸するものがある。
しかし、おかげで一際目立つ明るくて綺麗な月が見える町、ここ美沙希町が少年は好きだった。
「…… ってうおっ、バス行っちまうっ」
ただ、その時は。
その時は少年は気づこうとしなかっただけなのだ。
如何に、月光が眩しく夜空を照らそうとも。
如何にそれが、今にも真紅の色をたたえ、禍々しい姿に変容しようとしていようとも。
草も、木も、石も、山も、河川さえも
あらゆる色を称え、世界は、変貌する。
時にそれは、凄絶ですらある。
〜 Episode 6 〜 奈落 に 落ちた 土地
the one earth in the bottom
知っているだろうか。
諸君は。
世界は、――イヤ、我々人類と自称する生き物は皆、常に世界に対する強い恐怖におびえながら生活しているという事について、はたして自覚がおありだろうか。――人間の心理、その深きにいたっては長い間解明がなされていなかった。―――いや、解明は出来てはいたのだ。ただ、それを信じようとする人間があまりにも少なく、またそうした行動は神の力の前ではあまりにも無力だったのだ…そして世界は、混乱を恐れていたのである。
――――人間の深層心理、その中のある階層については、偉大なる創造主によって巧妙な細工が施してあることが判明した。ここにその詳細を記したい。だが、それには著書を受け取った諸君の真の意味での理解が必要だ。以下はその序章である。
魔法。幽霊。怪物。異世界の住民。―――こういったものの存在はみな、我々人類にとっては架空のものとして認識される。――なぜなら、これらは科学的思考を持つものが嫌う典型的なイレギュラーそのものだからである。説明できない物に対して最初に為される極簡単な心理的プログラム――しかし、この現象こそが、この既存するシステムこそが、太古の記憶から私たちの脳に刻み込まれたあるデータを記憶させ遺伝化したものが、科学的根拠にもとづく説明では不可侵な領域に達する奇現象における精神からのストッパーなのである。
存在し得ないものはあってはならない。科学とは常にそういった狭い領域の中で物事を測りとっているものだ。だから、そうして世界を形式化して見る以上はどうしても我々人類は盲目にならざるを得ない―――――これは非常に誤った考え方である――――本書を学ぶ上で最も捨て去らなくてはならない忌むべき思考である―――まずそれを理解してもらいたい――しかし、世界は不変ではない。絶えず変動する。特に、それ自体を目的とする生命の進化においては必ず言えることだ――平凡で盲目な人間たちの脳内の一部が、ある一定の領域に達した時、それこそ世界は変貌を迎える。その時に見える世界の有様、その変容振りに適応できる人間が果たして現世に存在しえるのだろうか?答えはノーである。しかし、限りなくゼロに近い値、とだけ言っておくことは出来る。なぜなら、あって存在しえぬもの――それこそが我々一生命としての人類の目指す進化そのものだからである――。
もはや…化学は、未知を知る手がかりではなくなってしまったようだ。
ここからが本当の意味での進化である。
神の庭である世界は開拓され、切り開かれる。
ああ、その先にどんな道が待っていようとも、道は開かれるだろう。
今こそ、我々が立ち上がるべき時なのである。
我々、wizardである人間として
――――ある囚人研究者による、『謎に満ちた研究』、序章
ペラ…
ペラ…
「何だコレ」
時は変わって、現代。
秋の夜道を、風がそよいでいた。
――と、言うにしては、えらく寒い土地でもある。辺りは霜で覆われ、静寂に包まれた夜空からは、小さな雪が降り注いでいる。
黒いマフラー一筋に茶褐色のコートを羽織い、少年は一人、繁華街の方へと向かう。
帰宅途中のバスに乗り遅れぬように、今日はいつもより少し、慌てている――はずだったのだが。
「いっけね、もうこんな時間っ」
少年が持っているものは、偶然見つけた、一冊の本。それを握り締め、少年はバス停へ走る。――いけねー、つい見入ってしまった。あの不可解な文章の中には、自分を特別魅了する何かがある。まてまて、間違いない。これが俺の捜し求めていたものだったのだ――
少年は心の中でつぶやき、右手拳を強く握り締めた。興奮を抑えきれないまま、あれやこれやと頭の中で想像を膨らましていくうちに次第にはバスに遅れる事などはほとんど忘れ、気にも留めなくなるほど夢心になって走っていた。
そこへ降りこめる雪が行く手を阻み、少年を現実に引き戻す――うおっ、後一分で乗り遅れそうだ!――
しかし
「うぉー・・・今日は実に良い満月だな・・」
少年は、今日もこうして暢気に月を見上げてみては感嘆するのであった。
こうして見上げていると、月には、何か特別な力がはたらいているように思えてくる。とても、とても神秘的な力が――
―――霧がかった街路地を、夜の光が照らしていた。辺りには街灯も立ち並んではいるが、とは言えどれもろくについてもくれないのだった。モダンな風景とはかけはなれ――、しかし歴史というか、人の営みを感じさせるへんぴな土地――人間の文明支配が遅れた町、とでも呼べるのだろうか――建物の多い繁華街は別として、此処のへんぴっぷりには常軌を逸するものがある。
しかし、おかげで一際目立つ明るくて綺麗な月が見える町、ここ美沙希町が少年は好きだった。
「…… ってうおっ、バス行っちまうっ」
ただ、その時は。
その時は少年は気づこうとしなかっただけなのだ。
如何に、月光が眩しく夜空を照らそうとも。
如何にそれが、今にも真紅の色をたたえ、禍々しい姿に変容しようとしていようとも。
草も、木も、石も、山も、河川さえも
あらゆる色を称え、世界は、変貌する。
時にそれは、凄絶ですらある。
C R I M S O N
〜第五話〜 Deep in the Forest
ここ数日は雨が続いていた――大地と木々を潤す恵みのスコールだ――少年にとってもまた、それは都合のいいことであった。
『――なにせ、狩りにいく必要がない。』
雨は、森に命を与えもすれば奪いもする――とりわけ、昨今のような土砂降りの場合は。
雨によって森が浸水しだすと、普段は穏やかな小川が氾濫し、土砂を含んだ濁流が押し寄せる。それに伴って、地底からは大蛇やワームがはいだす。それらが一緒になって森は大荒れとなるのだ。そう、ちょうどそれは海が荒れるのと同じように、森もまた嵐のごとく荒れる。だから、そういった日には、エルフ族もまた、他の小さな生物と同じように高い木の上で一日を過ごす。そのために常に家は樹上のはるか高くにたててあるのだ。
『――そう、だからあの子に会う必要もなかったのだ・・・』
今じゃすっかり、空は晴れ渡っている。
鳥たちのさえずりや、たくさんの羽音まで聞こえてくる。
ン グ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ オオ
バサバサバサ・・・・
突如として、異様な爆音が聞こえてくる――
どこに隠れていたのか、巨大な獣が出てきたようだ。歓喜の咆哮がこだましている。
少年のねらい目はああいう大物だ。にしては、少し人数が足りない気もするが・・・
それにしても、森の中というのは薄暗い。
少年は一度、腐乱した沼地に行ったことがある――胸を突く瘴気と底のない闇に満ちた恐ろしいところだった――その時はあそこなんかには二度と行きたくないと思ったものだ。が、しかしどこまでいっても先が見えないこの森こそ、少年にはよっぽど不気味だった。手にしている地図であっても、たいして当てにはしないのだった。常に川辺には霧が立ち込め、怪しげな雰囲気に包まれている――もっとも、そういうところにはもれなく危険が隠れているものだ――直感と動体視力だけが頼りの、ある意味闇の世界である。未開の地はまだまだたくさんある。伝説として語りつがれて来た地も存在する。
この土地には伝説上"葉の王"と呼ばれるエルフ族の主が居ると言い伝えがあるが――そんなやつ、居たとしても絶対信用できないね――と、この広大な森を見上げて少年はそう思った。
この森を支配できる奴なんて、いくらなんでも居るわけがないからだ。
要するに、この地に伝わる伝説や言い伝え―そのようなことに少年は全く持って関心がないのだ。そもそも、そんなことはいままで一匹狼で育ってきた少年にはほとんど無縁の話だ。よそみはしないほうがいい。これが結論だった。
やらなきゃやられる。前だけ見て歩く。
少年にとって、少なくともこの森にいるあいだは、信じられる言葉はその二つだった。
だから、先陣を切って歩くこの少女も、少年は欠片だって信頼しちゃいない。
「―おい、お前。 ちゃんと付いて来い。遅れるぞ 」
・・・こいつは一体、何をそんなに急ぐんだ?まだこんなに早朝だってのに。しかも、
ビュゥウウウウ―――
・・・雨上がりだってのに、イカれた北風が吹きやがる。まるで突風のようだ。たまげたな、いつの間にこんなに寒くなったのか。これじゃぁまともな狩りなどできそうもない・・・
外はまだ寒い。寒いのだ。
〜第五話〜 Deep in the Forest
ここ数日は雨が続いていた――大地と木々を潤す恵みのスコールだ――少年にとってもまた、それは都合のいいことであった。
『――なにせ、狩りにいく必要がない。』
雨は、森に命を与えもすれば奪いもする――とりわけ、昨今のような土砂降りの場合は。
雨によって森が浸水しだすと、普段は穏やかな小川が氾濫し、土砂を含んだ濁流が押し寄せる。それに伴って、地底からは大蛇やワームがはいだす。それらが一緒になって森は大荒れとなるのだ。そう、ちょうどそれは海が荒れるのと同じように、森もまた嵐のごとく荒れる。だから、そういった日には、エルフ族もまた、他の小さな生物と同じように高い木の上で一日を過ごす。そのために常に家は樹上のはるか高くにたててあるのだ。
『――そう、だからあの子に会う必要もなかったのだ・・・』
今じゃすっかり、空は晴れ渡っている。
鳥たちのさえずりや、たくさんの羽音まで聞こえてくる。
ン グ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ オオ
バサバサバサ・・・・
突如として、異様な爆音が聞こえてくる――
どこに隠れていたのか、巨大な獣が出てきたようだ。歓喜の咆哮がこだましている。
少年のねらい目はああいう大物だ。にしては、少し人数が足りない気もするが・・・
それにしても、森の中というのは薄暗い。
少年は一度、腐乱した沼地に行ったことがある――胸を突く瘴気と底のない闇に満ちた恐ろしいところだった――その時はあそこなんかには二度と行きたくないと思ったものだ。が、しかしどこまでいっても先が見えないこの森こそ、少年にはよっぽど不気味だった。手にしている地図であっても、たいして当てにはしないのだった。常に川辺には霧が立ち込め、怪しげな雰囲気に包まれている――もっとも、そういうところにはもれなく危険が隠れているものだ――直感と動体視力だけが頼りの、ある意味闇の世界である。未開の地はまだまだたくさんある。伝説として語りつがれて来た地も存在する。
この土地には伝説上"葉の王"と呼ばれるエルフ族の主が居ると言い伝えがあるが――そんなやつ、居たとしても絶対信用できないね――と、この広大な森を見上げて少年はそう思った。
この森を支配できる奴なんて、いくらなんでも居るわけがないからだ。
要するに、この地に伝わる伝説や言い伝え―そのようなことに少年は全く持って関心がないのだ。そもそも、そんなことはいままで一匹狼で育ってきた少年にはほとんど無縁の話だ。よそみはしないほうがいい。これが結論だった。
やらなきゃやられる。前だけ見て歩く。
少年にとって、少なくともこの森にいるあいだは、信じられる言葉はその二つだった。
だから、先陣を切って歩くこの少女も、少年は欠片だって信頼しちゃいない。
「―おい、お前。 ちゃんと付いて来い。遅れるぞ 」
・・・こいつは一体、何をそんなに急ぐんだ?まだこんなに早朝だってのに。しかも、
ビュゥウウウウ―――
・・・雨上がりだってのに、イカれた北風が吹きやがる。まるで突風のようだ。たまげたな、いつの間にこんなに寒くなったのか。これじゃぁまともな狩りなどできそうもない・・・
外はまだ寒い。寒いのだ。
C R I M S O N
〜第四話〜 Forest-2
少年はふと空を見る。
見上げる先には青く高く崇高な空が広がっている。その間を縫っていくように、青々と茂るさまざまな木々が葉を伸ばしている。
それが、この地独特の薄暗さ、重々しさを演出していた。
まいったな、今日は晴天だ。――とびっきりの、大快晴といったところか、くそったれ。――しかたない。早速狩りに出かけよう。
少年の耳は鋭くとがっており、顔は青ざめているかのように白く、整った顔立ちをしている。(エルフ族の特徴だ。)
そうなのだ。少年の肌は青ざめている――とりわけ、朝のこの時間は。
外は危ない。危険だ。いつも身の危険を案じなければならない。外に出るときは、常に心構えが必要だ。そして何より気がかりなのが――彼女――は、もう来ているだろうか。いや、きっとまだだ。まだ来てない・・・
"彼女"のことを考えるといつも怖気を感じる。外のどんな危険よりも、身の危険を感じるのは彼女に会うときだ。こればっかしはどんな災厄よりも恐ろしく、逃げ出したい願望におそわれる。
ああどうか、彼女がまだ玄関に居ませんように。
そう考えながら身の回り道具を集め狩りの準備をしていく。
弓矢を担ぎ、防具も身につけた。昨日の反省を踏まえ繕い直したものだ――これでヘビに噛まれる心配もなくなった――。
後は、そこのドアを開けて外へ向かうだけだ―――・・・・・。
少年は恐る恐る、玄関と思われるお粗末な扉を開けた。
グィイギギ・・・・
(この音にも十分少年は怖気を感じさせられる。これが毎日の習慣だからだ。)
半開きになった木戸に手をかける――でもやっぱり気が引けるのでその真ん中に空いた小さな穴から―ゆっくり向こう側の様子を伺う――・・・。
――玄関から続く長い橋と、そこにとまっている鳥が一羽。――
いない。彼女は居ない。
ここのところ調子がいいからかどうやら朝に強くなったらしい。
少年はほっと胸をなでおろし
「遅い」
しまった。
遅かった、やっぱり。
少女が、ドアの反対側に立っていた。
小説 ― C R I M S O N ― episode3 : Forest
2006年9月22日 Novel
C R I M S O N
〜第三話〜 Forest
・・チュンチュン・・チチ ・・・ンギォオオ ギャォオオオ
朝。
太陽が昇っている。
一風変わったこの地でもまた一軒の家が、立ちすくんでいる。
見るとこちらもやはり、今にも崩れ落ちそうなボロ屋である。
外からはまるで大自然の中心に居るようにはっきりと、鳥のさえずりが聞こえている。
それどころか"ギャォーギャォー"という轟音としか思えないようなわめき声なども時折聞こえてくる。
それもそのはず、ここは大自然の中心である。
緑の支配する世界―森。
大地には一面木々や花々が生い茂り、湧き上がる生命の感触、深く澄んだ空気がそこにはあった。
その一軒家とは、うねるように二つの木が絡み合い、その間にぱっかりと空いた空間に埋め込まれた木の塊(と言ったら解りやすいだろう)がなんとか家の形をかたどっている、といったところだ。
だがしかし、その中にはちゃんと生活している住民がいる。
木漏れ日と淡い日差しの中、少年が一人気持ちよさそうに眠っている。
「むにゃむにゃ・・・」
「んが、もう朝か」
何かに脅迫されるように、少年は突然目を覚ました。
〜第三話〜 Forest
・・チュンチュン・・チチ ・・・ンギォオオ ギャォオオオ
朝。
太陽が昇っている。
一風変わったこの地でもまた一軒の家が、立ちすくんでいる。
見るとこちらもやはり、今にも崩れ落ちそうなボロ屋である。
外からはまるで大自然の中心に居るようにはっきりと、鳥のさえずりが聞こえている。
それどころか"ギャォーギャォー"という轟音としか思えないようなわめき声なども時折聞こえてくる。
それもそのはず、ここは大自然の中心である。
緑の支配する世界―森。
大地には一面木々や花々が生い茂り、湧き上がる生命の感触、深く澄んだ空気がそこにはあった。
その一軒家とは、うねるように二つの木が絡み合い、その間にぱっかりと空いた空間に埋め込まれた木の塊(と言ったら解りやすいだろう)がなんとか家の形をかたどっている、といったところだ。
だがしかし、その中にはちゃんと生活している住民がいる。
木漏れ日と淡い日差しの中、少年が一人気持ちよさそうに眠っている。
「むにゃむにゃ・・・」
「んが、もう朝か」
何かに脅迫されるように、少年は突然目を覚ました。
小説 ― C R I M S O N ― episode2 : 一寸先は闇
2006年9月21日 Novel
C R I M S O N
〜第二話〜 一寸先は闇
「・・時が、始まろうとしている」
男はしゃがれた声で一言そう呟くと、ポケットからライターとパイプ――黄金に光る装飾の為された美しいパイプ。無論、薄汚れてはいるが――を取り出した。
眼前を覆っている乱れた黒髪を払いのける。するとその額には、深く考え更かしたような皺が刻み込まれているのが顕わになる――ちょうどそれは、思いつめた研究者がみせる狂人の業を思わせる何かがあった――。
その手は不器用に震えていたが、馴れた手つきでパイプに火を灯す。
・・・カチッ ・・ボゥ
「スゥー・・」
眉間に更に皺を寄せ、深く煙を吸い込む。
「・・フゥー」
しばし目を閉じ思いにふける。すると
「ぬふっ、んぬう、うふっ、ゥォッホン」
激しくむせる。
体を二つ折りにして腹を抱えこむような格好になる。
男の咳き込む姿は、老人のそれとも判断しかねない様子――酷く病弱そうである。
男はパイプの火を消しテーブルへ置くと、一転して足早にコツコツと歩き出し、バンと玄関の戸を開けた。
外は未だ薄暗い。
おまけにそこら中に黒くにじんだ霧がかかっているせいで視界が全く判然としない。
しかし爛漫と輝く月が男の姿を僅かに照らしていた。何かもの言いたげに月をみつめると、にやりと笑った。
――復讐―――
その顔は憎悪と悲しみに歪み、抑えられない男のどす黒い内面を映し出しているように見える。
月光に映るその姿は、悪魔の様でもあった。
どこか満足げに首を振ると、扉から手を離す。そして間もなく、男は濃くなっていく闇の中に包まれていった。
行く先は闇。気の遠くなるような闇の中を男は進んで行った。
後書き
2話が長くなりそうなので分けてみたらちょうどいい感じに<?>。
もう少し練り上げようかとも思いますねェ―。
画像も載せようと思います。
そしてMAGICの世界ももっと紹介していこうかと。
では頑張ります。
それではまた<終>
〜第二話〜 一寸先は闇
「・・時が、始まろうとしている」
男はしゃがれた声で一言そう呟くと、ポケットからライターとパイプ――黄金に光る装飾の為された美しいパイプ。無論、薄汚れてはいるが――を取り出した。
眼前を覆っている乱れた黒髪を払いのける。するとその額には、深く考え更かしたような皺が刻み込まれているのが顕わになる――ちょうどそれは、思いつめた研究者がみせる狂人の業を思わせる何かがあった――。
その手は不器用に震えていたが、馴れた手つきでパイプに火を灯す。
・・・カチッ ・・ボゥ
「スゥー・・」
眉間に更に皺を寄せ、深く煙を吸い込む。
「・・フゥー」
しばし目を閉じ思いにふける。すると
「ぬふっ、んぬう、うふっ、ゥォッホン」
激しくむせる。
体を二つ折りにして腹を抱えこむような格好になる。
男の咳き込む姿は、老人のそれとも判断しかねない様子――酷く病弱そうである。
男はパイプの火を消しテーブルへ置くと、一転して足早にコツコツと歩き出し、バンと玄関の戸を開けた。
外は未だ薄暗い。
おまけにそこら中に黒くにじんだ霧がかかっているせいで視界が全く判然としない。
しかし爛漫と輝く月が男の姿を僅かに照らしていた。何かもの言いたげに月をみつめると、にやりと笑った。
――復讐―――
その顔は憎悪と悲しみに歪み、抑えられない男のどす黒い内面を映し出しているように見える。
月光に映るその姿は、悪魔の様でもあった。
どこか満足げに首を振ると、扉から手を離す。そして間もなく、男は濃くなっていく闇の中に包まれていった。
行く先は闇。気の遠くなるような闇の中を男は進んで行った。
後書き
2話が長くなりそうなので分けてみたらちょうどいい感じに<?>。
もう少し練り上げようかとも思いますねェ―。
画像も載せようと思います。
そしてMAGICの世界ももっと紹介していこうかと。
では頑張ります。
それではまた<終>
小説 ― C R I M S O N
2006年9月15日 Novel コメント (2)
C R I M S O N
深夜。
外は薄暗い。月明かりだけが頼りの、完全に世界が寝静まった刻限。
とはいえ、これほど辺境の土地でなければ、ライトがそれを照らすのだが――通路には、自販機も車も見当たらない。
・・・なにやら、そこら中から奇妙な物音や奇声のようなものが聞こえているのが分かるが。
見渡すと、一面濃い霧で覆われている。
霞んだ視覚でわずかに感知できるのは陰の濃淡、爛々と輝き夜空に浮かぶ満月――。
それも、真っ赤に光り輝いて。
物音の一つ、一軒の家の、ようなもの。
ガジャ
グィイイイ・・・・ギギ
――ぎこちなく薄気味悪い音を立てながら、ゆっくりと腐敗の進んだ木戸が開かれる。
半開きになった木戸を押しのけ、一人の男が現れた・・・一斉に逃げ出すゴキブリや蜘蛛を追うようにして、10センチほどの蜥蜴ものそのそと、だが急いで戸棚に隠れ込み、おぞましい苔むした木戸からは濃い緑色の埃が異様なほど流れ出た。
バララ・・・
・・・グジャ、 ジャ、
男は下を向いたまま、埃の中を意ともせず、一歩ずつフラフラと歩き出す。
部屋を見渡すと本当にここに住んでいるのかどうなのか、と言った感じである。もっとも、ここに人が住めるようには到底思えない。部屋――と言うよりも物置小屋――から出て来たにもかかわらず、フード付きのジャンバーを着ており、これもまた汚れ腐った苔のような色をしている。そのうえ碧色の蠢くカビの様な物が肩やら裾にしがみついているのだから、ひたすら、不気味である。
長く切られていないと思われる前髪のせいで顔の半分は見えず、鼻の下からは角ばった顎を覆うように髭が生えているのが分かる。
・・ジャ、ジャリ
男は立ち止まりふと、テーブルへ手を伸ばす。テーブルには、飲みかけのコーヒーカップが置かれており、しかしそれには蜘蛛の巣が張られている。さらにカップの中では、なにやらせわしなく、生き物が蠢いているような音が聞こえる。
バラバラと埃かぶった二、三冊の雑誌を払いのけると、その下にある鍵のようなものを拾いポケットにしまった。
「・・時が、始まろうとしている」
後書き
だいぶ時間がたってしまいましたが更新です。そのうちぐわーっと更新するはずですよ。たぶん
MAGIC小説です。
背景は「Phyrexia」をイメージしました。
しかし設定は全然違います・・・。あくまで私の主観です。ええ。理想の世界です。
全体としては暗ーいダークな感じのストーリーにしていきたいと思っています。
コレもまたイメージと言うわけでw(←THE理想主義者
なにはともあれ、これを再開の印とさせていただきましょう。
それではまた。
深夜。
外は薄暗い。月明かりだけが頼りの、完全に世界が寝静まった刻限。
とはいえ、これほど辺境の土地でなければ、ライトがそれを照らすのだが――通路には、自販機も車も見当たらない。
・・・なにやら、そこら中から奇妙な物音や奇声のようなものが聞こえているのが分かるが。
見渡すと、一面濃い霧で覆われている。
霞んだ視覚でわずかに感知できるのは陰の濃淡、爛々と輝き夜空に浮かぶ満月――。
それも、真っ赤に光り輝いて。
物音の一つ、一軒の家の、ようなもの。
ガジャ
グィイイイ・・・・ギギ
――ぎこちなく薄気味悪い音を立てながら、ゆっくりと腐敗の進んだ木戸が開かれる。
半開きになった木戸を押しのけ、一人の男が現れた・・・一斉に逃げ出すゴキブリや蜘蛛を追うようにして、10センチほどの蜥蜴ものそのそと、だが急いで戸棚に隠れ込み、おぞましい苔むした木戸からは濃い緑色の埃が異様なほど流れ出た。
バララ・・・
・・・グジャ、 ジャ、
男は下を向いたまま、埃の中を意ともせず、一歩ずつフラフラと歩き出す。
部屋を見渡すと本当にここに住んでいるのかどうなのか、と言った感じである。もっとも、ここに人が住めるようには到底思えない。部屋――と言うよりも物置小屋――から出て来たにもかかわらず、フード付きのジャンバーを着ており、これもまた汚れ腐った苔のような色をしている。そのうえ碧色の蠢くカビの様な物が肩やら裾にしがみついているのだから、ひたすら、不気味である。
長く切られていないと思われる前髪のせいで顔の半分は見えず、鼻の下からは角ばった顎を覆うように髭が生えているのが分かる。
・・ジャ、ジャリ
男は立ち止まりふと、テーブルへ手を伸ばす。テーブルには、飲みかけのコーヒーカップが置かれており、しかしそれには蜘蛛の巣が張られている。さらにカップの中では、なにやらせわしなく、生き物が蠢いているような音が聞こえる。
バラバラと埃かぶった二、三冊の雑誌を払いのけると、その下にある鍵のようなものを拾いポケットにしまった。
「・・時が、始まろうとしている」
後書き
だいぶ時間がたってしまいましたが更新です。そのうちぐわーっと更新するはずですよ。たぶん
MAGIC小説です。
背景は「Phyrexia」をイメージしました。
しかし設定は全然違います・・・。あくまで私の主観です。ええ。理想の世界です。
全体としては暗ーいダークな感じのストーリーにしていきたいと思っています。
コレもまたイメージと言うわけでw(←THE理想主義者
なにはともあれ、これを再開の印とさせていただきましょう。
それではまた。